20年ぐらい前、
ぼくは地方都市で働いていて、
そこで、
べらぼうに面白い先輩に出会った。
ブティックみたいな店をやってるんだけど、
その人と会うのはもっぱら飲み屋。
なにしろ話しが面白い。
その人の口から出れば、
おかわり、
のひと言でも笑えるぐらい。
理屈抜きにぼくのツボだった。
音楽も好きで、
バンドを組んでボーカルをしていた。
ライブはかっこ良かった。
ぼくらと飲んでいる時は、
格好をつけてるんだけど、
家に帰るとヘロヘロだったようだ。
家で寝ぼけて、
ふすまを開けて、
中の掃除機に小便した、
というのが、
その人の鉄板ネタのひとつだった。
ネタといっても、
それは事実だった。
よく奥さん子どもは愛想つかさないな、
と思っていた。
面白くて、
歌が好きで、
飲んべえのその先輩は、
しかし商売ヘタで、
ぼくがその地方都市を去る直前には、
ぼくに借金するぐらいだった。
ぼくは先輩が大好きだったが、
「この人ヤバいな」
とも思っていた。
その人が死んだと聞いたのは、
その地方都市を離れて数年たったころだった。
そんな体験があるぼくにとって、
「火花」は、
とても分かりやすい小説だった。
生きるのが下手な主人公が、
生きるのがメチャクチャ下手な先輩に、
「あんた生きるん下手すぎんねん」
と言うまで。
ぼくはこの小説を、
そんな風に読んだ。
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