2015年7月24日金曜日

先輩

20年ぐらい前、
ぼくは地方都市で働いていて、
そこで、
べらぼうに面白い先輩に出会った。

ブティックみたいな店をやってるんだけど、
その人と会うのはもっぱら飲み屋。

なにしろ話しが面白い。

その人の口から出れば、

おかわり、

のひと言でも笑えるぐらい。

理屈抜きにぼくのツボだった。

音楽も好きで、
バンドを組んでボーカルをしていた。

ライブはかっこ良かった。

ぼくらと飲んでいる時は、
格好をつけてるんだけど、

家に帰るとヘロヘロだったようだ。

家で寝ぼけて、
ふすまを開けて、
中の掃除機に小便した、

というのが、
その人の鉄板ネタのひとつだった。

ネタといっても、
それは事実だった。

よく奥さん子どもは愛想つかさないな、
と思っていた。

面白くて、
歌が好きで、
飲んべえのその先輩は、
しかし商売ヘタで、
ぼくがその地方都市を去る直前には、
ぼくに借金するぐらいだった。

ぼくは先輩が大好きだったが、
「この人ヤバいな」
とも思っていた。

その人が死んだと聞いたのは、
その地方都市を離れて数年たったころだった。

そんな体験があるぼくにとって、
「火花」は、
とても分かりやすい小説だった。

生きるのが下手な主人公が、
生きるのがメチャクチャ下手な先輩に、

「あんた生きるん下手すぎんねん」

と言うまで。

ぼくはこの小説を、
そんな風に読んだ。


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