会社まで雨は大丈夫だろうと、
傘を持たずに出かけたが、
あと少しの所で降り出した。
コンビニでビニール傘を買おうかとも思ったけど、
すぐに止みそうだったから、
そばの旅行代理店の軒先に避難した。
雨宿りなど久し振りだった。
激しく斜めに降る雨粒をボーっと見ながら、
音楽を聞き、
煙草を吸っていると、
背後からビニール傘がニュッと出てきた。
振り返ると、
ぼくより少し年かさの男性が、
何やら言っている。
親切に貸してくれるのか?
そう考えながらイヤホンをはずすと、
男性は、
「これあげるから、ここで煙草吸わんといて」
断わっておくけど屋外だ。
雨宿りしていたのはぼくだけ、
それもほんの数分だった。
ぼくは、
傘を貸してくれる親切、
という最初の思い込みを引きずりながら、
いや、
この男性は怒っているのだ、
ということを中途半端に悟りながら、
ただ傘を受け取り、
その場を立ち去った。
ふだん灰皿のない場所では、
たとえ屋外でもぼくは煙草は吸わない。
ただ突然の雨という状況で、
ポッカリ空いた時間に一服したのだ。
しかし男性にはそれが気に入らなかった。
ぼくの行為が誰かの機嫌を損ねた。
それは否定できない。
ぼくが無言で(何か言ったかもしれないけど覚えていない)立ち去ったのは、
自分の行為に何か問題がある可能性を否定できなかったからだ。
一方で謝らなかったのは、
悪いことはしていないという気持ちもあったからだろう。
雨はそれから1分もしないうちに止んだ。
ぼくは傘を畳み、
ついさっきのやり取りを何度も思い出した。
なぜか悲しくなった。
●本気でボーカルを目指すなら、喫煙はもってのほかという意見は絶対あると思うし、そのとおりであるとも思う。でも今は吸っているし、当分やめることもないだろう。字にできる理由はないし、書いても全部言い訳としか受け取られないだろうし、そのとおりだろう。
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