東京・吉祥寺に「SOMTIME」という、
とっても素敵なジャズバーができたと、
19歳のぼくは雑誌で知り、
当時好きだった女の子を誘ったことがある。
バスに乗って、
地下にある、
壁がレンガで覆われた、
ちょっと外国の倉庫風の店は、
上京してほどないぼくには、
別世界のようだった。
ましてや隣には好きな女の子。
何を聞いたかなんて全然覚えてない。
時は流れ、
数年前、
1年間だけ東京に住む機会があった。
住まいを中央線沿線の荻窪に決めたのは、
吉祥寺にも新宿にも近いからだった。
SOMETIMEにも何度か行った。
店のレンガ、
大きな丸い掛け時計。
いい音を吸った何十年か分、
より素敵な店になっていた。
敬愛するジョニー・ハートマンも、
ここでライブ盤を録音した。
何人かの歌を聞いた。
中でも格別な思い出があるのが、
関西出身の越智順子さんだ。
それまでも何度か聞いたことはあったし、
数年通っていたジャズスクールで講師をしてらしたから、
素の状態で見かけたこともある。
ぼくはSOMETIMEで越智さんに、
とんでもないことをお願いした。
「1曲歌わせてください。恥はかかせません」
どうか信じて欲しいけど、
ぼくは宝くじに当たるより可能性はないと思っていた。
それほどうぬぼれは強くない。
でも、
その時それを言わないと、
絶対に後悔するような気がものすごくしたのだ。
越智さんは一瞬困ったような顔をして、
それでも共演者や店の人に一応話をしてくれた。
結果は「ごめなさい」だったのだが、
ぼくは120%満足だったし、
本当は二つ返事で「あほか」と言うべきところを、
ぐっとこらえてくれたであろう越智さんに、
感謝したものだ。
その越智さんが、
亡くなった。
ガンだったそうだ。
闘病中なのはHPで知っていたが、
今日、
武庫之荘・Mクアトロのセッションに行く車のラジオで知った。
43歳だったという。
女性に失礼だけど、
ぼくより年上だと思っていた。
それほど包容力のある、
姿であり、
笑顔であり、
歌声であった。
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