子どもの書道を習っていた。
教室は竹やぶに囲まれた、
平屋の古民家みたいで、
外壁は真っ黒。
建物の中に入ると、
墨の匂いがして、
あの匂いはいまだに忘れられない。
その先生は、
当時のぼくにはおじいさんに見えたけど、
実際は40歳代ぐらいだったかもしれないが、
名前でググってもヒットしない。
単に名前を覚え間違っているだけかもしれない。
たぶんぼくのことだからそうなのだろう。
いやそれで本題なんだけど、
教室では子どもごとにお手本が配られて、
それを真似て書くわけ。
中には、
半紙の下にお手本を敷いて、
上からなぞるようにする、
悪知恵の働く子もいた。
ぼくではない。
でも、
そうやって「ズル」した子は、
先生が一発で見破った。
今思えば当たり前かもしれないけど、
子どものぼくには、
千里眼のように思えた。
「ズル」と書いたけれど、
今思えば、
そういう学び方もアリなのではないかとも思うけど。
さて。
仕事では、
ぼくは手本にはなれない。
ぼくの真似をしろとも思わない。
基本が大事だと、
最近では口酸っぱく言うんだけど、
当のぼくは若い頃、
基本なんて全然重視してなかった。
いつもトリッキーで、
人が驚くようなことばかりする、
出来の悪い馬鹿だった。
だから、
今ぼくが「基本を大事に」としかる若い人の方が、
当時のぼくよりは遥かに基本に忠実だ。
だから、
あまりしかることができない。
昔のぼくより、
はるかに優秀だから。
ただ、
今のぼくからすると、
こうしたい、
ああしたい、
と、
いろんなアイデアが沸いてくるから、
他人の仕事を見ているだけの状況は、
非常にストレスフルだ。
単純に、
オレにやらせろって感じ。
でもそれでは人は育たない。
人なんて、
育てるんじゃなく、
育つものだ。
そんな割り切りも必要かもしれない。
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