その織物は、
芥川龍之介をして、
「恐るべき芸術的完成」と言わしめた。
初代龍村平藏。
それ誰やねんって感じだけど、
新聞の書評に興味をそそられ読んだ、
「錦」(宮尾登美子著、中央公論新社)は、
この初代をモデルにした一代記だ。
主人公菱村吉蔵は、
16歳で織物の世界に飛び込み、
独創的な織り方の考案はもとより、
古代裂の復元で名をはせた。
作中、
法隆寺や、
正倉院に残る列の復元を手掛ける場面がある。
古人の創意工夫に近づかんとする、
鬼気迫る職人たちの姿は、
この作品の白眉だろう。
ボロボロの布きれから、
織り方、
文様、
染色方法を想像していく。
正解のない、
果てしない模索。
ついには周囲に気がふれたとまで言われ、
没頭すること何年にもおよび、
ようやく自らに納得の行く作品を完成させる。
妻、
妾、
そして幼きころに吉蔵に一目ぼれし、
生涯身の回りの世話をすることになる女性。
この3人の織りなす綾など、
なるほど宮尾登美子とうなる手慣れた書きっぷりで、
女心に恐れ入る。
と、
これを読んでいる時、
NHK世界遺産の旅で、
ワルシャワ旧市街を取り上げていた。
ここはナチスによって破壊の限りを尽くされ、
だから現状の美しい街並は、
この40年ほどの間に復元されたものだそうだ。
すべての建物、
レリーフ、
彫刻、
石畳に至るまで、
精密に再現できたのは、
銃弾飛び交う中、
街の破壊を予感した建築科の学生たちが、
細かに図面に写し取っていたからで、
その膨大な資料は、
修道院の棺に隠されたという。
だから、
世界遺産の指定は、
建物そのものの歴史的価値ではなく、
復興にかけた市民の情熱に対して行われたのだそうだ。
番組中、
ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督がインタビューに答え、
次のように言っていた言葉が、
印象的だ。
「恐れずに過去を見つめ、未来に伝えることが、われわれの使命だ」
●いつも忙しい人と、思わず小一時間、有意義な会話ができた●セリーグペナントレース。ついに巨人が首位阪神に3.5ゲームにまで迫った。さぁ、にわか巨人ファンが増えるぞー
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