2008年9月6日土曜日

復元

その織物は、
芥川龍之介をして、
「恐るべき芸術的完成」と言わしめた。

初代龍村平藏。

それ誰やねんって感じだけど、
新聞の書評に興味をそそられ読んだ、
「錦」(宮尾登美子著、中央公論新社)は、
この初代をモデルにした一代記だ。

主人公菱村吉蔵は、
16歳で織物の世界に飛び込み、
独創的な織り方の考案はもとより、
古代裂の復元で名をはせた。

作中、
法隆寺や、
正倉院に残る列の復元を手掛ける場面がある。
古人の創意工夫に近づかんとする、
鬼気迫る職人たちの姿は、
この作品の白眉だろう。

ボロボロの布きれから、
織り方、
文様、
染色方法を想像していく。

正解のない、
果てしない模索。
ついには周囲に気がふれたとまで言われ、
没頭すること何年にもおよび、
ようやく自らに納得の行く作品を完成させる。

妻、
妾、
そして幼きころに吉蔵に一目ぼれし、
生涯身の回りの世話をすることになる女性。
この3人の織りなす綾など、
なるほど宮尾登美子とうなる手慣れた書きっぷりで、
女心に恐れ入る。

と、
これを読んでいる時、
NHK世界遺産の旅で、
ワルシャワ旧市街を取り上げていた。

ここはナチスによって破壊の限りを尽くされ、
だから現状の美しい街並は、
この40年ほどの間に復元されたものだそうだ。
すべての建物、
レリーフ、
彫刻、
石畳に至るまで、
精密に再現できたのは、
銃弾飛び交う中、
街の破壊を予感した建築科の学生たちが、
細かに図面に写し取っていたからで、
その膨大な資料は、
修道院の棺に隠されたという。

だから、
世界遺産の指定は、
建物そのものの歴史的価値ではなく、
復興にかけた市民の情熱に対して行われたのだそうだ。

番組中、
ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督がインタビューに答え、
次のように言っていた言葉が、
印象的だ。


「恐れずに過去を見つめ、未来に伝えることが、われわれの使命だ」


●いつも忙しい人と、思わず小一時間、有意義な会話ができた●セリーグペナントレース。ついに巨人が首位阪神に3.5ゲームにまで迫った。さぁ、にわか巨人ファンが増えるぞー

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