散髪屋の店頭で回っている、
赤と青と白の「渦巻き」は、
動脈と静脈と包帯を表していて、
それは昔、
外科医が散髪を兼ねていたからだと、
何かで読んだことがある。
駅の帰り、
いつもの渦巻きがないことにフト気づいた。
「ABC」という、
身も蓋もない名前の散髪屋さんは、
ぼくが子どものころからあって、
高校生までは通っていた。
順番待ちの椅子で漫画雑誌を読みふけったこと、
新入りの店員に当たると、
子供心に「大丈夫かな」と思ったこと。
きっちりセットしてくれた髪型が恥ずかしくて、
店を出るなり手櫛でぐしゃぐしゃにしたこと。。。
40年は営業していたはずだ。
大学生になって上京してからは、
ついに二度と行く事はなかったけど、
死んだ親父はずっと通い続けていた。
店主が仕事中に倒れたという話を聞いたことがあって、
剃刀を使っている時だったら怖いなと思ったことがある。
ぼくが通っていたころは、
店主がちょうど今のぼくぐらいの年齢だったのだろう。
結局、
後継者がおらず、
店じまいすることにしたのだそうだ。
うちの近所には同じように、
60歳をとうに過ぎた人たちが続けている店がいくつかある。
みな、
今のぼくよりうんと若い時にこの地に店を構え、
一生懸命精を出して働き、
子供を一人前にし、
もはや「余生」という年代に差し掛かっている。
結局、
「ABC」という名前の由来すら知らないままだ。
たぶん大した訳などないのだろう。
同じように長いことやってる喫茶店だって、
「ブルー」とあっさりしたものだ。
そんなことに凝る時代じゃなかったのだ。
閉店したその店の数軒おいた並びに、
黒と金を基調にした美容院が開店準備に追われていた。
「GOLD」というゴージャズな名前のその店は、
これからどんな歴史を刻むのだろう。
●リビングのTVがついに薄型に変身した。我が家にとっては革命的出来事。ハイビジョンって本当にすごい。布袋寅泰の東大寺ライブに見入ってしまった。しばらく病みつきになりそうだ。
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