小室哲哉氏が釈放された時、
「人生をリセット」したいというような事を言っていて、
そりゃ違うなと思った。
「一からやり直す」という事を、
キザに表現したのだろうが、
人生は、
「一からやり直す」ことも、
「リセット」することもできはしない。
例えば、
人は誰でも生まれながらに自転車に乗れる訳ではない。
たいていはこどもの頃、
三輪車から初めて、
補助輪を一つづつはずして、
何度もこけて、
ある時、
乗れるようになったと思う。
では、
そうやって自転車に乗ることができる人が、
もう一度、
「自転車に乗れない人」になれるだろうか?
「乗らない」ことはできても、
「乗れない」状態に戻ることはできまい。
「人生をリセットする」というのは、
これと同じ不可能なことだ。
「何事も経験だ」と人は安易に使う。
しかし、
この前ゴルフの話でも書いたように、
経験というものは、
必ずしも役に立つものばかりではない。
人生においては、
「しなければいい経験」
「してはいけない経験」
というのもきっとあるのだろう。
何かを経験してしまった以上、
それ以前の自分には、
あらゆる意味で戻れない。
時は自分の意思とは無関係に過ぎていく。
だから当然、
人は常に何がしか経験を重ね続け、
変わっていく。
誰にもそれは止めることができない。
大病や、
事件や、
そんなことではなくても、
人は一瞬たりとも同じ自分ではいられない。
粘土細工のように、
うまく行かなければぐちゃぐちゃにして、
作り直すことはできない。
かといって石像でもあるまい。
一度ノミを振るったら最後、
失敗は絶対に許されない、
ということもないはずだ。
45年ほど生きてきたぼくなど、
他人から見れば、
「しなきゃいい」経験ばかり重ねてきたかもしれない。
石像だったら、
もうとっくに破たんして、
ゴミ捨て場行きだ。
陶芸家は気に入らない作品を、
惜しげもなく割るけど、
ぼくが焼き物なら、
ぼくはあの破片だ。
結局、
人生は油絵のようなものか。
塗り重ねて塗り重ねて、
行き詰ってもう一度真白く塗りなおして、
でもその白地の奥には、
うっすらと以前の色が見えるような。
その反射光に、
まっさらなキャンパスに描いたのとは異なる、
何がしかの深みが出ることを期待しながら。
絶対に「糊塗」ではないと、
自分に言い聞かせながら。
そうして、
完成することのない絵を、
いつまでも描き続けるしかない。
●NHKスペシャル「プロ魂」。王監督、「人間なんだから失敗もすると思っては駄目なんです。プロは人間じゃ駄目なんです」。あのまなざしで言われると、どんな事でも「真理」に思える●浅田真央。成功した3回転半の一瞬の鮮やかさはさすが。
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