2008年11月30日日曜日

リセット

小室哲哉氏が釈放された時、
「人生をリセット」したいというような事を言っていて、
そりゃ違うなと思った。

「一からやり直す」という事を、
キザに表現したのだろうが、
人生は、
「一からやり直す」ことも、
「リセット」することもできはしない。



例えば、
人は誰でも生まれながらに自転車に乗れる訳ではない。
たいていはこどもの頃、
三輪車から初めて、
補助輪を一つづつはずして、
何度もこけて、
ある時、
乗れるようになったと思う。

では、
そうやって自転車に乗ることができる人が、
もう一度、
「自転車に乗れない人」になれるだろうか?

「乗らない」ことはできても、
「乗れない」状態に戻ることはできまい。
「人生をリセットする」というのは、
これと同じ不可能なことだ。



「何事も経験だ」と人は安易に使う。
しかし、
この前ゴルフの話でも書いたように、
経験というものは、
必ずしも役に立つものばかりではない。

人生においては、
「しなければいい経験」
「してはいけない経験」
というのもきっとあるのだろう。

何かを経験してしまった以上、
それ以前の自分には、
あらゆる意味で戻れない。



時は自分の意思とは無関係に過ぎていく。
だから当然、
人は常に何がしか経験を重ね続け、
変わっていく。
誰にもそれは止めることができない。

大病や、
事件や、
そんなことではなくても、
人は一瞬たりとも同じ自分ではいられない。


粘土細工のように、
うまく行かなければぐちゃぐちゃにして、
作り直すことはできない。

かといって石像でもあるまい。
一度ノミを振るったら最後、
失敗は絶対に許されない、
ということもないはずだ。



45年ほど生きてきたぼくなど、
他人から見れば、
「しなきゃいい」経験ばかり重ねてきたかもしれない。
石像だったら、
もうとっくに破たんして、
ゴミ捨て場行きだ。
陶芸家は気に入らない作品を、
惜しげもなく割るけど、
ぼくが焼き物なら、
ぼくはあの破片だ。

結局、
人生は油絵のようなものか。
塗り重ねて塗り重ねて、
行き詰ってもう一度真白く塗りなおして、
でもその白地の奥には、
うっすらと以前の色が見えるような。

その反射光に、
まっさらなキャンパスに描いたのとは異なる、
何がしかの深みが出ることを期待しながら。
絶対に「糊塗」ではないと、
自分に言い聞かせながら。



そうして、
完成することのない絵を、
いつまでも描き続けるしかない。


●NHKスペシャル「プロ魂」。王監督、「人間なんだから失敗もすると思っては駄目なんです。プロは人間じゃ駄目なんです」。あのまなざしで言われると、どんな事でも「真理」に思える●浅田真央。成功した3回転半の一瞬の鮮やかさはさすが。

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