昔吉本新喜劇の看板役者だった岡八郎に、
空手を通信教育で学ぶというネタがあった。
「オレは空手ならっとんねんで」
「ほー一体どこで」
「通信教育で」
そこで観客はドッと笑うのだけど、
この可笑しさの根源には、
空手は通信教育なんかじゃ学べないという、
暗黙の了解がある。
バンクーバー五輪が間近になって、
代表選手の特集番組が俄然目立ってきた。
外国人コーチに学ぶ選手が多いことに気づく。
最近見ただけでも、
モーグルの上村愛子、
ショートトラックの桜井美馬、
スノボの竹内智香がそうだ。
女性ばかりなのは偶然かもしれないが、
彼女らが当惑するのはまず、
それまでの技術を捨て去ることだった。
そして、
それまでとは真逆の方法を体に覚え込ませることだ。
例えばこれまで「重心は前に」と教えられ、
それでそれなりの結果を上げてきたのに、
外人コーチに「重心は後ろ」と言われれば、
当然迷うし、
何より体が言うことをきかないだろう。
それでも強くなるためにと割り切って取り組む。
でも結果が全然ついてこない。
当然混乱する。
「このコーチの言うことは本当なのか」
「その技術は私には向いていないのではないか」
迷って迷って迷って、
泥沼に入り込む。
2年も3年もそんな状態が続いたら、
普通嫌になってしまうだろう。
それに耐えられるのは、
誰よりも強くなりたいという意志であり、
コーチと心中するという覚悟であり、
何より、
自分を乗り越えようという不屈の勇気だ。
クローズアップ現代で上村愛子を紹介していた。
コブだらけの斜面を、
時速50キロ近くで滑り落ちる恐怖心。
それを克服する勇気とは、
三浦豪太氏に言わせると、
「熱いストーブに手を当てても手を引っ込めない」
そんなものだそうだ。
人間が防衛反応として生物的に備えている、
条件反射をも抑え込むということなのだ。
そんなことを可能にするには、
一体どれだけの訓練が必要なのだろう。
朝青龍が引退するそうだ。
ドルゴルスレン・ダグワドルジ少年は、
大相撲という未知の世界で必死に努力し、
横綱に上り詰め、
25回も優勝した。
その間、
懸賞金の受け取り方が変だとか、
優勝してガッツポーズをするのが不謹慎だとか、
散々責められた。
「強い」ということだけが、
異国での彼の最後のより所だった。
たび重なる素行の悪さと、
今回の暴力事件。
自ら招いた結果とはいえ、
土俵上の勇気は本物だった。
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