2010年2月5日金曜日

不屈

昔吉本新喜劇の看板役者だった岡八郎に、
空手を通信教育で学ぶというネタがあった。

「オレは空手ならっとんねんで」

「ほー一体どこで」

「通信教育で」

そこで観客はドッと笑うのだけど、
この可笑しさの根源には、
空手は通信教育なんかじゃ学べないという、
暗黙の了解がある。


バンクーバー五輪が間近になって、
代表選手の特集番組が俄然目立ってきた。

外国人コーチに学ぶ選手が多いことに気づく。

最近見ただけでも、
モーグルの上村愛子、
ショートトラックの桜井美馬、
スノボの竹内智香がそうだ。

女性ばかりなのは偶然かもしれないが、
彼女らが当惑するのはまず、
それまでの技術を捨て去ることだった。
そして、
それまでとは真逆の方法を体に覚え込ませることだ。


例えばこれまで「重心は前に」と教えられ、
それでそれなりの結果を上げてきたのに、
外人コーチに「重心は後ろ」と言われれば、
当然迷うし、
何より体が言うことをきかないだろう。

それでも強くなるためにと割り切って取り組む。

でも結果が全然ついてこない。

当然混乱する。

「このコーチの言うことは本当なのか」

「その技術は私には向いていないのではないか」

迷って迷って迷って、
泥沼に入り込む。


2年も3年もそんな状態が続いたら、
普通嫌になってしまうだろう。

それに耐えられるのは、
誰よりも強くなりたいという意志であり、
コーチと心中するという覚悟であり、
何より、
自分を乗り越えようという不屈の勇気だ。


クローズアップ現代で上村愛子を紹介していた。

コブだらけの斜面を、
時速50キロ近くで滑り落ちる恐怖心。

それを克服する勇気とは、
三浦豪太氏に言わせると、

「熱いストーブに手を当てても手を引っ込めない」

そんなものだそうだ。

人間が防衛反応として生物的に備えている、
条件反射をも抑え込むということなのだ。

そんなことを可能にするには、
一体どれだけの訓練が必要なのだろう。


朝青龍が引退するそうだ。

ドルゴルスレン・ダグワドルジ少年は、
大相撲という未知の世界で必死に努力し、
横綱に上り詰め、
25回も優勝した。

その間、
懸賞金の受け取り方が変だとか、
優勝してガッツポーズをするのが不謹慎だとか、
散々責められた。

「強い」ということだけが、
異国での彼の最後のより所だった。


たび重なる素行の悪さと、
今回の暴力事件。 

自ら招いた結果とはいえ、
土俵上の勇気は本物だった。

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