一度味わった恐怖心は容易にぬぐい去れない。
最大斜度40度の雪面を、
最高時速160キロで滑り「落ちる」滑降スキーの場合、
一度大事故を経験した選手は大抵、
復帰しても以前のようには攻められなくなるという。
バンクーバー五輪で金メダル最有力の、
ノルウェーのアクセル・スビンダルは、
大事故の恐怖心を克服した稀有な選手の一人だ。
今日のNスペ「ミラクルボディー第1回」の話。
番組の最初の方でスビンダルは、
「本当に勝ちたいなら、限界と思う心の安全装置をはずすんです」
なんて笑いながら言っていて、
単なる命知らずかと思ったのだが、
実は違った。
スビンダルに事故を起こしたコースの映像を見せながら、
彼の脳をMRI撮影したところ、
扁桃体という、
情動と記憶を司る部分が明らかに活発化していた。
脳科学者に言わせると、
スビンダルの脳には事故の恐怖が刻み込まれおり、
それは消え去ることはないのだという。
では、
彼はどうやって再び世界の第一線に戻りえたのか。
小型カメラを搭載したゴーグルをつけて、
彼に滑ってもらったところ、
彼は1分間に1度しかまばたきしなかった。
しかも、
時速160キロでは働くはずのない脳の部分(頭頂連合野)が活性化していた。
専門家は言う。
「恐怖にとらわれたくない、自分をコントロールしたいという強い思いが脳を促し、恐怖を抑え込もうとしている。心理的重みから逃げるのではなくあえて積極的に向き合うことで(脳が)強化された」
つまり、
彼は本能的な部分に植えつけられた恐怖心を、
消し去るのでも無視するのでもなく、
あえて凝視することで相殺しているのだ。
最後に彼は言う。
「極限の状況を経験することは、それが仮にあまりよくないことでも、成長するチャンスだと思います。アップダウンのある人生の方が、早く成長できる気がします。ぼくはあの大事故でたくさんのことを学びました」
こういう番組を見ると、
ぼくは励まされる。
●アクセルっていう名前がいいね。
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