2010年2月8日月曜日

相殺

一度味わった恐怖心は容易にぬぐい去れない。

最大斜度40度の雪面を、
最高時速160キロで滑り「落ちる」滑降スキーの場合、
一度大事故を経験した選手は大抵、
復帰しても以前のようには攻められなくなるという。

バンクーバー五輪で金メダル最有力の、
ノルウェーのアクセル・スビンダルは、
大事故の恐怖心を克服した稀有な選手の一人だ。


今日のNスペ「ミラクルボディー第1回」の話。


番組の最初の方でスビンダルは、

「本当に勝ちたいなら、限界と思う心の安全装置をはずすんです」

なんて笑いながら言っていて、
単なる命知らずかと思ったのだが、
実は違った。


スビンダルに事故を起こしたコースの映像を見せながら、
彼の脳をMRI撮影したところ、
扁桃体という、
情動と記憶を司る部分が明らかに活発化していた。

脳科学者に言わせると、
スビンダルの脳には事故の恐怖が刻み込まれおり、
それは消え去ることはないのだという。


では、
彼はどうやって再び世界の第一線に戻りえたのか。

小型カメラを搭載したゴーグルをつけて、
彼に滑ってもらったところ、
彼は1分間に1度しかまばたきしなかった。

しかも、
時速160キロでは働くはずのない脳の部分(頭頂連合野)が活性化していた。

専門家は言う。

「恐怖にとらわれたくない、自分をコントロールしたいという強い思いが脳を促し、恐怖を抑え込もうとしている。心理的重みから逃げるのではなくあえて積極的に向き合うことで(脳が)強化された」


つまり、
彼は本能的な部分に植えつけられた恐怖心を、
消し去るのでも無視するのでもなく、
あえて凝視することで相殺しているのだ。


最後に彼は言う。

「極限の状況を経験することは、それが仮にあまりよくないことでも、成長するチャンスだと思います。アップダウンのある人生の方が、早く成長できる気がします。ぼくはあの大事故でたくさんのことを学びました」

こういう番組を見ると、
ぼくは励まされる。

●アクセルっていう名前がいいね。

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