「ピカソは本当に偉いのか?」(西岡文彦著、新潮社新書)
がめっちゃ面白かった。
芸術家というのは何となく、
生きているうちは認められず、
死後になって名声が高まるって、
漠然と思っていて、
そういう芸術家は実際多いんだけど、
ピカソは例外中の例外。
彼の名声は生前から高く、
作品の値段も高かった。
彼は「私がツバを吐けば、偉大な芸術として売られるだろう」と、
豪語していたという。
一方で「アビニョンの娘たち」に代表される、
キュビズムという手法の作品は不可解で、
「わからない」ことこそが、
一流の芸術の証みたいなところもある。
本書は、
なぜピカソがあれほど難解な絵を描きながら、
生前においてすでに富も名声も得ることができたのか、
その歴史的背景をわかりやすく説明してくれる。
わかりやすいので、
あっという間に読めてしまうのだけれど、
内容は相当に深い。
たとえば、
写真の発明によって、
画家は物を忠実に描くだけでは太刀打ちできなくなり、
そのことが印象派やその後の絵画表現を生んだ。
それは理解できるのだけれど、
面白いのは「前衛」という概念の根底に、
進化論があるという説明だ。
著者は進化論の登場によって、
変化する事が向上を意味するようになったとする。
時代の変化に乗り遅れたものは生き残れない、という今日では自明と思われている考え方が定着することになった。
「新しい」イコール「良い事」という考えは、
そのルーツに進化論があって、
ピカソのキュビズムなんかが受け入れられた背景にも、
そうした考え方があるわけだ。
ただ、
それでピカソの絵画なんて実はくだらない、
ってことにはならないのがピカソのピカソたるゆえん。
素人には子どもの落書きにしか見えないキュビズム作品も、
実は驚異的なピカソのデッサン力があると著者はいう。
改めて見直してみると写実描写のかけらもないはずの画面なのですが、そこに乱暴に引かれた線やべったり塗られた色面が、じつはこれ以上は考えられないように巧妙に配置され、驚くべき写実性を基盤に描かれていることに気づかされるわけです。
分かる人には分かるということなんですな。
ぼくには全くわかりませんが(泣)