2008年8月2日土曜日

自転車Ⅲ

その日は仕事が休みで、
セッションに参加するため、
夕方出かけた。

いつもより少し早目、
午後11時前に最寄駅に帰ってきたぼくは、
自転車置き場に向かう。
震災よりずっと前、
駅周辺に整備された時からずっと、
借りている場所だ。

もうほとんどの自転車は、
主と共に家路につき、
がらんとした駐輪場。

考えてみたがらんとしすぎていて、
ぼくの自転車までがなくなっていた。

「!」

声を上げることはなかったけど、
一瞬言葉もなかった。

あるべき場所にあるべき物がない。
座ろうとしたら椅子がなかったみたいな感じ。
あとは自転車こいで帰宅して、
風呂に入ってブログ書いてという、
頭の中の道筋がフッとかき消された。

我に返って考えてみた。
間違って別の場所に置いた?
いいや、
いつもの左右の自転車の間に差し込むように止めた。
ほんの数時間前のことだ。
その感触は今もある。
カギをかけ忘れた?
この左手にある。

ということは。

盗まれた。

ここまで認識するのに、
数秒ぐらいはかかった。

初めての経験だったけど、
落胆も怒りも別になかった。
係員も当然いない。
ただ携帯で母に連絡し、
「自転車盗られた。本当に」
とだけ伝え、
歩いて帰った。

防犯登録はしてある。
そのうちどこかで見つかるだろう。
そう楽観的に考えていた。

母の方が「えらいこっちゃ」という風であった。

ぼくは次の自転車を買うのはしばらく見合わせ、
通勤にはバスを使うことにした。
暑かったけど、
買ったら途端に見つかりそうな、
そんな間の悪さが自分にあることを、
ぼくは知っている。

母はせっせと自転車屋やら、
自転車置き場の係員に報告し、
最寄の交番に届を出した。
ぼくはそんな母を、
警察が一生懸命探してくれる訳ないじゃないかと、
冷ややかに、
でも黙って見ていた。

だから撤去自転車置き場からの通知を見たとき、
やっぱりこういう形で出てくるんだよなと、
妙に納得し、
つくづく新しい自転車を買わなくてよかったと、
10日間ほどの辛抱が報われた気がしていた。


だから1800円を出し惜しんだわけじゃなかった。


ただちょっと納得がいかなかっただけだ。


30日の夕方、
名神高速の下にある撤去自転車保管場所から、
市役所に電話をかけたぼくは、
そういう心境だった。。。


●この項続く●三宮のクレオールで、赤松真理さんのライブ。ギター&バイオリンとボーカルで活動しているバンドで、ジャズスタンダードとオリジナルの構成。初めての店だったけど、バーというよりミニホールという感じで、とっても上品。その上品さに赤松さんらの演奏がまたピッタリで、本当に心が洗われるようだった。一回洗ったぐらいじゃ、この汚れ、どうにもならないんだけど。

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