2008年8月10日日曜日

YAWARA

悔しさを押し殺しているようには見えなかった。

むしろ諦念、
あるいは無。

谷亮子ほどの勝負師なら、
目の前にいるルーマニアの選手に勝てるか否か、
同じ畳で対峙した瞬間に分かったはずだ。

勝てないかもしれないと感じたからこそ、
まともに組まなかった。
組めなかった。

一方、
ルーマニアの選手は、
勝てるかもしれないと思ったはずだ。
だが相手は五輪連覇中の女王。
組みたくとも、
無意識が組ましてくれなかった。

勝てないかもしれない。
勝てるかもしれない。

同じ畳の上にいる審判は、
組み合おうとしない両者の中の、
微妙な違いを感じ取ったのではないか。

実績と経験で固めた、
YAWARAという鎧。
谷は容易に覗かせようとはしなかったが、
その中身の脆弱さを誰よりも分かっていたのは、
ほかならぬ谷自身だっただろう。

判定で敗れた後、
谷が見せた表情は、
もはや鎧をまとい続ける必要のない、
柔道家・谷亮子の素顔であったのだと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿

遺志

30日は親父の13回忌だ。 あーそんなになるのか、 と言うのが率直な感想。 親父が亡くなる直前、 僕は酒を辞めた。 復職して最初のボーナスが出た日、 入院していた病院に行って報告した。 もう親父はかなり弱っていて、 ほとんど喋れなかった。 でも...