ヒース・レジャーが28歳で急逝した時、
ぼくは彼のことを知らず、
その後公開された「ダーク・ナイト」のジョーカー役で、
強烈な演技に打たれ、
「惜しい俳優を亡くした」ということを実感した。
と同時に、
どうして彼がジョーカー役に抜擢されたのか不思議で、
「ブロークバック・マウンテン」(アン・リー監督)をDVDで観た。
で再び驚かされた。
そこには、
悪の化身で饒舌なあのジョーカーとは似ても似つかぬ、
寡黙で不器用なカウボーイ役の彼がいた。
それもゲイの。
1960年代の米といえば、
もちろん黒人差別は存在したわけだが、
ゲイやレズに対する偏見は、
ある意味黒人に対する以上に強かったのではなかろうか。
映画に登場する二人のカウボーイは、
20年間にわたり関係を続けながらも、
女性と結婚し子どもももうけ、
一見人並みの家庭を築く。
二人の逢瀬は年に数回。
それでも、
いやそれが故に二人の愛は衰えることなく、
それは片方の悲劇的な死まで続く。
大自然をバックにした二人の演技が素晴らしい。
どっちつかずの中途半端な状態を続けた果てに、
自分たちや周囲を不幸に陥れ、
結局、
取り戻すことのできない年月を悔やむ。
そんな悲劇的な歳月が、
やや駆け足に、
それでも淡々と描写されていく。
それにしても、
ゲイの寡黙な青年とジョーカー。
これほど振幅の激しい役を演じきったヒース・レジャーとは、
いったいどのような俳優だったのだろうか。
ダーク・ナイト完成直前、
公私ともにつかれ切った彼は、
睡眠薬など薬物に頼るようになり、
結局それがもとで死んでしまった。
そこまでして、
あのジョーカーを作り上げたのか。
もう一度「ダーク・ナイト」を観たくなった。
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