子どものころ、
押入れに入るのが好きだった。
しまわれた布団の上、
時にはその間に潜り込んで、
戸を閉める。
何とも言えない落ち着きは、
きっと生まれる前の記憶とつながっていたのだと思う。
「猫を抱いて象と泳ぐ」(小川洋子著、文芸春秋社)は、
小さなチェスプレーヤーと、
彼を取り巻く人たちの物語。
先日書いた予感の通り、
実に見事な、
宝石のような作品だった。
この作品では、
「閉塞」が主要なテーマになっている。
主人公は、
カラクリ人形の台座に隠れ、
人間相手にチェスをする。
彼が子供のころ好きだった象は、
大きくなりすぎて、
デパートの屋上から死ぬまで下りられなかった。
第一、
チェス自体が、
8×8の枡目の中に閉じ込められた世界だ。
しかし登場人物、
何より主人公のリトル・アリョーヒンは、
チェスの盤面でこそ自分を解き放つ。
作中、
ある老婦人が彼に言う。
「自分より、チェスの宇宙の方がずっと広大なのです。自分などというちっぽけなものにこだわっていては、本当のチェスは指せません」。
対戦の描写が素晴らしい。
全くの門外漢が読んでも、
このゲームの奥深さがわかった気になる。
深く深く、
思考の海に沈む様は、
どこか、
本当の海を扱った「グレート・ブルー」に通じて、
神々しささえ漂う。
「静謐」そのものだ。
●というわけではないが、三宮「グレート・ブルー」でたなかりかさんのライブに。この人は、パッション全開で聴衆の心をわしづかみするタイプ。かなり「ヤバい」魅力である。
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