子どものころ書道を習っていたぼくは、
通っていた流派の書き初め大会に出席するため、
家族とともに東京・日本武道館に向かった。
その数年前に開かれた東京五輪の柔道で、
神永とヘーシンクが闘った「伝説の場所」に行くというだけで、
幼いぼくには十分緊張すべき出来事だった。
新幹線に乗ったのもたぶんその時が初めてだったと思う。
広いフロア一面に何百人という子供たちがいて、
親は子どもの「晴れ姿」を観客席からドキドキしながら眺めている。
一面に漂う墨汁の匂い。
「よいこ」という3文字を書くためだけに上京するというのも、
今思えばどーかとも思うが、
とにかく家族一同非常に興奮していた。
ハイテンションの中で書き始めたぼくは、
「よい」のところで無性にトイレに行きたくなった。
さっさと「こ」を書けばいいものを、
我慢できなかったぼくは中座してトイレに走った。
たぶん人に尋ねたり迷ったりしたのだろう。
かなりの時間がかかったようだ。
驚いたのは観客席の親で、
別の場所にいた姉に気をとられている間にぼくがいなくなっていて、
いつまでたっても戻ってこない(実際には10分もかかってないと思うが)。
今なら誘拐騒ぎになっていたかもしれない状況だ。
そんな親の心配をよそに、
用を足してスッキリしたぼくは何とか自分の場所に戻り、
心を込めて「こ」と書き終えたのだが、
あとから親にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
今にして思えば、
「よいこ」と一気に書けなかったのは、
その後の人生を暗示していたのだ。
●その時の「よいこ」の書は、なぜか叔母の家にあるという●マスターズが開幕した。遼クンがどれほどのものか、楽しみだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿