2009年6月25日木曜日

両手

夜9時頃、
発車待ちの電車。

閉まる寸前のドアに、
両手がねじ込まれた。
手には、
真赤な小さめの紙バックが握られている。



ぼくはドアのそばに立ち、
イヤホンで音楽を聴きながら、
雑誌を読んでいた。

だから正確には、
「何か」が起きていることを察知して、
そちらを見たら、
紙バックを握った両手が、
電車の外からねじ込まれているのが見えた。



それからドアの外を見ると、
バックと同じような色のワンピースを着た、
ぼくぐらいの女性が、
髪を振り乱して前のめりになっていた。

ぼくの頭の中は、
それまで読んでいたマカオ情勢の記事のことや、
このまま電車が発車したら、
この女性はどうするのだろうか、
一緒に走るのか、
それとも引きずられるのだろうか、
などという思いが一緒くたになった。



そして、
そんな思いより先にぼくの手は、
扉を開けるのを手伝おうと、
女性の両手で作られたわずかな隙間に伸びていた。

ぼくの力ではどうしようもないと、
そんなことは知りながら、
でもひょっとしたら開けられて、
事故を防げるかもしれないなどと思いながら。



でも実際にはぼくの手が隙間に到達する前に、
車掌がドアを開けたので、
女性は引きずられることもなく電車に乗り込んだ。

コンマ何秒かの出来事だった。

ぼくは、
自分の手の素早さに少し感心しながら、
また雑誌を読みだした。

女性のことは見なかった。



それにしても、
通勤時ならいざしらず、
夜9時の各駅停車に、
あれほど必死に乗りたいなんて、
どんな事情があったのかと、
しばらくしてから考えた。



●自分でも呆れるぐらいよく寝た●「ロシアハウス」(ウィラード・キャロル監督)をDVDで。「グラン・トリノ」と、時代やストーリーは全く違うけど、「この身でできる最善策を実行する主人公」という意味では共通していた。ショーン・コネリーが素敵だった●羽生名人が防衛に成功。カド番からの連勝で逆転。竜王戦の時の渡辺といい、タイトルホルダーの執念というのは本当にスゴイ。

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