2009年7月26日日曜日

鶴瓶

笑福亭鶴瓶に会ったのは、
中学生の時だ。

会ったというより、
出くわしたという方が近い。

最寄の西宮北口駅を歩いていたぼくらは、
正面から近づいてきた彼に、
「すんませんけど、今何時ですか」と笑顔で尋ねられた。

彼はその時、
たぶん20歳代だったと思うけど、
当時彼のトレードマークだったカーリーヘアーと、
あのダミ声と細目は、
今でも何となく印象に残っている。

まだ売り出し中の若手落語家で、
「つるびん」と呼ばれることも多かった、
彼に会った事が自慢になるのかどうか、
当時のぼくにはよくわからない、
そんなぐらいの存在だった。

その彼が主演する「ディア・ドクター」を、
西宮北口の映画館で観ることになったのも、
何かの縁かもしれない。



でも、
この映画を観ようと思ったのは、
監督の西川美和という人を先日、
NHK「トップランナー」で知ったからというのと、
日経新聞の映画評でとても高い評価だったからだ。

鶴瓶は田舎町の診療所の医師役で、
住民から頼られる「赤ひげ」のような存在だ。

その医師がある日突然失踪する。

映画は失踪までの彼と住民の日常を描きつつ、
失踪の真相を除所に明かしていく。
そのあたりの運び方は、
とても上手いと思った。

最後になって、
実は謎そのものは、
映画の冒頭に近い部分で、
医師本人の口から語られていたということに気づく。



「暗黙の了解」みたいなもので成り立っている、
田舎町の雰囲気や、
その田舎町出身で今は都会に住む女性が、
結果的にその微妙なバランスを破ってしまうという、
これで良かったのかしらねぇみたいな部分、
つまり「後味の悪さ」も、
無理なく表現されていていた。

そういった意味では、
よく出来た映画だとは思った。
でもそれは、
「言いたいことは凄い分かる」というレベルだった。
映画の魔法はぼくにはかからなかった。

あと、
笑える部分がひとつもなかったのも残念だ。
たとえ後味の悪さを描く映画でも、
やっぱりクスッとできる部分がないと、
とりあえず肩がこる。

西川監督は「蛇イチゴ」「ゆれる」に次ぐ3作目。
脚本も手がけている。
小説は直木賞候補にもなった。
新たな才能であることは間違いない。



それにしても、
この映画における鶴瓶の存在感は圧倒的だ。
患者役の八千草薫を相手にして、
一歩も引けをとらないどころか、
謎を抱えた医師を見事に演じていた。

謎を含めたストーリー、
スクリーン上のすべてが、
彼ひとりに支配されていた。



あのカーリーヘアがねぇと、
映画の後味まで、
鶴瓶一色だった。


●中学生だったぼくは「腕時計も持ってないんかいな」と思ったものだ。

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