2009年7月27日月曜日

清算

男と女は同じ人間でありながら、
犬と猫ほどに違う生き物だ。

先日読み終えた、
「IN」(桐野夏生著、集英社)について書こうと、
パラパラめくりながら、
改めてそんなことを想う。



この作品には、
小説内小説として、
「無垢人」という作品が出てくる。

不倫が発覚した作家と妻の、
壮絶な日常を描いた作品だ。

主人公の女性作家「タマキ」は、
この小説の取材を通して、
自身の不倫体験について内省を深める。



冒頭、
タマキが、
元不倫相手だった編集者「青司」と会う場面がある。

未だ、
かつての二人について思い巡らし、
「淫」というタイトルの、
自作にまでしようとするタマキと、
すでに「過去」にしてしまった青司。

再会に興奮を覚える主人公は、
青司に違和感を覚える。

服装に気を遣わなくなり、
煙草も吸わなくなった。

それ以上に、
小説を媒介にして熱く結ばれていたはずの二人の絆が、
消え失せていた。

青司は、
タマキとの関係が破たんしたことで、
同時に文芸への興味も失っていた。


 「俺の仕事と感情は、すべてあなたとのことで失われたよ。もう四十代で全部燃え尽きたんだ。脱け殻なんだよ」
 脱け殻という言葉は、今の青司に相応しいような気がして、タマキは黙った。自分は脱け殻ではないはずだった。まだ、小説を書かねばならない。かつて、青司と昂奮して激論したり、必死だった仕事にまだ囚われていた。が、青司は自身を、燃え尽きた脱け殻だ、と言う。相似形だった青司は、一人でどこかへ行ってしまったのだ。



やがてタマキは、
「無垢人」の取材を進めるにつれ、
実話とされているこの作品の深層に気づく。

女性は一度生んだ愛憎を、
決して清算しない。



「無垢人」は島尾敏雄の「死の棘」がベースだ。
夫婦の愛憎の極限を描いた傑作小説を、
ぼくはかつて、
怖れおののきながら、
そして不思議なことに、
救いを求めて読んだ。

「IN」の帯にこう書いてある。

たかが恋愛、と笑う人々は何も知らないのだ。

●宮里藍、米女子ゴルフツアー初優勝。挑戦4年目の快挙だ。しかし岡本綾子は17回勝っている。藍ちゃん、先は長いぞ。

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