男と女は同じ人間でありながら、
犬と猫ほどに違う生き物だ。
先日読み終えた、
「IN」(桐野夏生著、集英社)について書こうと、
パラパラめくりながら、
改めてそんなことを想う。
この作品には、
小説内小説として、
「無垢人」という作品が出てくる。
不倫が発覚した作家と妻の、
壮絶な日常を描いた作品だ。
主人公の女性作家「タマキ」は、
この小説の取材を通して、
自身の不倫体験について内省を深める。
冒頭、
タマキが、
元不倫相手だった編集者「青司」と会う場面がある。
未だ、
かつての二人について思い巡らし、
「淫」というタイトルの、
自作にまでしようとするタマキと、
すでに「過去」にしてしまった青司。
再会に興奮を覚える主人公は、
青司に違和感を覚える。
服装に気を遣わなくなり、
煙草も吸わなくなった。
それ以上に、
小説を媒介にして熱く結ばれていたはずの二人の絆が、
消え失せていた。
青司は、
タマキとの関係が破たんしたことで、
同時に文芸への興味も失っていた。
「俺の仕事と感情は、すべてあなたとのことで失われたよ。もう四十代で全部燃え尽きたんだ。脱け殻なんだよ」
脱け殻という言葉は、今の青司に相応しいような気がして、タマキは黙った。自分は脱け殻ではないはずだった。まだ、小説を書かねばならない。かつて、青司と昂奮して激論したり、必死だった仕事にまだ囚われていた。が、青司は自身を、燃え尽きた脱け殻だ、と言う。相似形だった青司は、一人でどこかへ行ってしまったのだ。
やがてタマキは、
「無垢人」の取材を進めるにつれ、
実話とされているこの作品の深層に気づく。
女性は一度生んだ愛憎を、
決して清算しない。
「無垢人」は島尾敏雄の「死の棘」がベースだ。
夫婦の愛憎の極限を描いた傑作小説を、
ぼくはかつて、
怖れおののきながら、
そして不思議なことに、
救いを求めて読んだ。
「IN」の帯にこう書いてある。
たかが恋愛、と笑う人々は何も知らないのだ。
●宮里藍、米女子ゴルフツアー初優勝。挑戦4年目の快挙だ。しかし岡本綾子は17回勝っている。藍ちゃん、先は長いぞ。
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