2009年7月7日火曜日

犠牲

人間なんて、
「野性に理性の皮を被せただけ」
という昨日の表現は、
われながら的を得ていると思う。

体の構造的な問題から、
心のありようまで、
人間の99.9%、
あるいはそれ以上は、
チンパンジー並みなのではなかろうか。

もちろん、
薄皮一枚の理性こそが、
大切なのだが。



「リスクにあなたは騙される」(ダン・ガードナー著、早川書房)

よほど自分は理性的だと思っている人でも、
この本を読めば、
理性など本当に薄皮一枚だと認識するだろう。

この本には、
人間がいかに「恐怖」によって理性が狂わされるか、
ということが具体的に書かれているのだが、
特に冒頭のエピソードは興味深い。

あの9.11テロの後、
アメリカでは約1年間、
飛行機の利用者が激減した。

車にシフトしたのである。

その結果どうなったか。

交通事故による死者が増えたのだ。

研究によると、
約1600人が、
飛行機から車にシフトしたために死んだという。
この数は、
同時テロの死者の半数を上回る。

要は飛行機に比べ、
車は非常に危険な乗り物なのである。



しかしあのテロの映像を見て、
飛行機を敬遠したくなる気持ちは、
誰にでも共通するだろう。

頭では「飛行機は安全」と分かっていても、
野性、
つまりこの本によれば「腹」の判断は違う。

腹の判断はより原初的ではあるが強烈で、
しばしば頭より高次にある。
頭は腹の下した判断を正当化しようと、
もっともらしい理由をねつ造しさえもする。



そうした知見もさることながら、
このエピソードで考えさせられたのは、
死ななくてもよかった1600人である。

彼らは、
直接テロで死んだわけではないが、
ある意味テロの犠牲者でもある。

本人は知る由もなかったわけだが。

世界中の人に悼まれることもなく、
日常の、
ありきたりな交通事故の犠牲者として、
新聞に名前が載ることもなかった。

遺族にとっては、
どちらも同じ悲劇なのに。



日本では、
交通事故の年間死者数が1万人を切って久しい。

一方、
自殺者は3万人を超えたままだ。

そして今日も、
何十人もの人が自殺する。

何の犠牲かもわからずに。

0 件のコメント:

コメントを投稿

遺志

30日は親父の13回忌だ。 あーそんなになるのか、 と言うのが率直な感想。 親父が亡くなる直前、 僕は酒を辞めた。 復職して最初のボーナスが出た日、 入院していた病院に行って報告した。 もう親父はかなり弱っていて、 ほとんど喋れなかった。 でも...