人間なんて、
「野性に理性の皮を被せただけ」
という昨日の表現は、
われながら的を得ていると思う。
体の構造的な問題から、
心のありようまで、
人間の99.9%、
あるいはそれ以上は、
チンパンジー並みなのではなかろうか。
もちろん、
薄皮一枚の理性こそが、
大切なのだが。
「リスクにあなたは騙される」(ダン・ガードナー著、早川書房)
よほど自分は理性的だと思っている人でも、
この本を読めば、
理性など本当に薄皮一枚だと認識するだろう。
この本には、
人間がいかに「恐怖」によって理性が狂わされるか、
ということが具体的に書かれているのだが、
特に冒頭のエピソードは興味深い。
あの9.11テロの後、
アメリカでは約1年間、
飛行機の利用者が激減した。
車にシフトしたのである。
その結果どうなったか。
交通事故による死者が増えたのだ。
研究によると、
約1600人が、
飛行機から車にシフトしたために死んだという。
この数は、
同時テロの死者の半数を上回る。
要は飛行機に比べ、
車は非常に危険な乗り物なのである。
しかしあのテロの映像を見て、
飛行機を敬遠したくなる気持ちは、
誰にでも共通するだろう。
頭では「飛行機は安全」と分かっていても、
野性、
つまりこの本によれば「腹」の判断は違う。
腹の判断はより原初的ではあるが強烈で、
しばしば頭より高次にある。
頭は腹の下した判断を正当化しようと、
もっともらしい理由をねつ造しさえもする。
そうした知見もさることながら、
このエピソードで考えさせられたのは、
死ななくてもよかった1600人である。
彼らは、
直接テロで死んだわけではないが、
ある意味テロの犠牲者でもある。
本人は知る由もなかったわけだが。
世界中の人に悼まれることもなく、
日常の、
ありきたりな交通事故の犠牲者として、
新聞に名前が載ることもなかった。
遺族にとっては、
どちらも同じ悲劇なのに。
日本では、
交通事故の年間死者数が1万人を切って久しい。
一方、
自殺者は3万人を超えたままだ。
そして今日も、
何十人もの人が自殺する。
何の犠牲かもわからずに。
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