先日見てきた宮城県名取市閖上地区。
700人もの犠牲者を出したこの海岸沿いの町で、
地震から津波が来るまでの1時間10分の間に、
人々がどう行動したかを、
時間を追って克明に検証していた。
地震発生から10分間、
人々の動きは緩慢だったという。
とんでもない揺れ。
建物は大きく壊れ、
液状化現象もすでに発生していた。
にもかかわらず町は静かだったという。
ある被災者は、
家の壁がステレオの折れた脚を直そうとしていた。
ひどい被害が出ているにもかかわらず、
多くの人が避難しようとしなかった、
こういう現象は、
「正常性バイアス」と呼ぶらしい。
危険な状況ではないと思い込む。
危険が迫っても避難したがらない。
それが人間だ。
一方で、
こうした異常事態に、
一人暮らしの高齢者を避難させようとした人も多くいた。
異常事態が起きた時、
自分の命を顧みず他人を救おうとする、
「愛他行動」が急激に増えるのだという。
今助けないとこの人は死んでしまう。
そう思った時、
自分の命はあまり考えず、
助けるという行動に集中する。
それも人間だ。
中には津波にいち早く気づき、
必死に危ないと呼びかけた人もいたが、
人々の動きは緩慢だった。
ここでまた、
もう一つの心理が生まれていた。
「同調バイアス」
とりあえず周囲と同じように動けば安心と勘違いする。
災害時に顕著になる心の動きだという。
そして津波が襲来する。
双子の娘と避難した主婦の話が生々しかった。
「ママ、お空汚いけどあれ何」
娘の言葉に振り返ると、
それが津波だった。
また娘が言う。
「ママ、今度は下からお家とか流れてきているよ」
主婦はふたりの娘の襟首をつかんで間一髪、
避難所の閖上中学校に飛び込む。
しかし階段は混雑していて、
仕方なく一階の廊下を突っ切り、
奥の扉をあけると、
両側から水が来ていた。
子供の手を握って母は「ごめんね」と言った。
ここまで逃げてきたけれど、
守れなかった。
そう思ったという。
3人はそれでも、
一階の音楽室に逃げ込み、
階段教室の上段でなんとか助かった。
正常性バイアス
愛他行動
同調バイアス
大災害時に人が陥りやすい罠。
助かった人は、
この罠にかからなかったか、
他人よりいち早く現実を知り、
罠から逃れた人たちだろう。
700人の犠牲者が遺してくれた、
貴重な教訓だ。
大切にしたい。