2009年10月9日金曜日
原液
最近愛聴している「花と水」。
サックスの菊地成孔とピアノの南博の即興演奏に、
かつてなく心癒される。
菊地成孔といえば、
彼と大谷能生の講義を収めた「東京大学のアルバートアイラー」は、
ぼくにとっての瞠目の書。
だけど彼のCDはこれが初めてだ。
その菊地氏が、
NHK「わたしが子どもだったころ」に出ていた。
この番組、
前に藤原紀香の分を見たことがあったけど、
今回は全然趣が違った。
実家の食堂の配達で、
界隈のストリップ劇場やサパークラブに行き、
そこで体験した大人の甘美で猥雑な世界が、
まるで映画のように再現されていた。
それも、
生まれてから大学までといった感じではなく、
小学校低学年のころの、
ほんの一時期をじっくり描いていて、
かなり異色。
よほど彼にとって決定的な原体験なのだろう。
彼は「香水を濃縮したような」と表現していた。
そして今の自分のサックスの音は、
その濃縮された体験を、
希釈して希釈して振りまいているようなものだと。
香水は希釈してあるからこそ良い香りで、
原液は決してそうではなく、
むしろ不快だという意味で。
音楽というか、
音というのは、
確かにそういうものかもしれない。
原液がよい香りなら、
そりゃ薄めてもよい香りはするだろう。
でも、
不快な原液を薄めて、
しかも人間と反応した時に、
とてつもなく官能的に化けることもある。
彼とぼくは同学年なのだけど、
当然のことながら住んでいた場所も環境も違う。
人間に原液というべき体験があるとして、
ぼくのそれは一体どんなもので、
それを希釈したぼくの歌は、
いかなる香りを放っているのだろう。
それよりも先に、
ぼくは人間として現役だろうか。
●ちなみに彼のお兄さんは作家の菊地秀行氏●台風一過。思った通り、関西は夜の間に駆け足で通りぬけて行ってくれた。用心して休みにした人はさぞ喜んだことだろうが、おかげ様で元町に行き損ねた●短パンにTシャツじゃ寒い。風邪にご用心。
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