2010年5月27日木曜日
手垢
お金は汚い物だと聞かされても、
こどものころのぼくは、
意味がよく分からなかった。
いまは文字通り、
お金は汚いものだと想像できる。
何十年もの間、
ありとあらゆる人の、
手から手へ渡ってきた物が、
汚くなくて何だろう。
潔癖症のある人は、
電車のつり革さえ持てない、
という話を聞いたことがあるけど、
お金はどうだろうか。
手垢にまみれた硬貨の製造年が、
自分の生まれ年だと気付き、
よくもまぁ長い間、
こいつも生き延びてきたもんだ、
妙に愛おしく思えることがある。
でもそのお金にもし記憶があって、
それをのぞき見たら、
きっと即座にぶっ倒れるだろう。
お金が汚いという意味と同じで、
言葉も汚い。
言葉には実体はないけれど、
やっぱり、
ありとあらゆる人が使ってきたのだから、
手垢にまみれた汚いものだ。
汚い言葉だけでじゃなく、
きれいな言葉だって汚い。
にもかかわらず人間は、
その言葉を使って生きるしかない。
潔癖症の人だって、
それは同じだろう。
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