2011年1月20日木曜日

大器

先日発表のあった芥川賞と直木賞の新聞記事を、
会社の後輩の女性社員が切りぬいている。

前にクリスマスケーキの一件で、
印象的なお礼の言葉をくれた彼女だ。

イマドキ新聞の切り抜きなど珍しいを事を、
と理由を尋ねると、
「私の知り合いなんです」と意外な返事。

「え、どの人」

「この人です」と彼女が指さしたのは、、、












右から二人目の、
小太りのおっさん。

「苦役列車」で芥川賞に輝いた西村賢太43歳。

ぼくはたぶん、
右端の朝吹真理子が後輩とかなんとか、
そんなとこを予想していただけに、
一番意表を突かれる回答。

さらに続く彼女の言葉に、
ぼくはひっくり返りそうになった。

「この人と6年間文通してるんです」

はぁ。

ブンツウ‼

死語だろ。

なんでも、
フトしたことで知り合いになり、
以来ずっと手紙のやりとりだけの「付き合い」を続けているらしい。

「授賞した時電報を打とうと思ったんですけど、当日配達は7時までなんですね」

「じゃあ電話すればいいじゃん」

「いや、ホント、住所しか知らないんです。携帯持ってないんじゃないですかねぇ」

彼女の口から発せられる言葉の一つ一つが、
予想外すぎて、
開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。

だって、
ぼくは西村氏の作品は読んだことないけど、
相当に破天荒というか、
破滅的というか、
かなり危険な「異端児」。

酒と女におぼれるスキャンダラスな、
駄目駄目フリーターだということぐらいは、
ニュースで知っていたからだ。

ぼくから見れば、
西村氏とは対極にある可愛らしい雰囲気の彼女が、
このおっさんと文通してるということが、
まったくアンリアル。

「でも、やっぱり文章とか上手いですよ」

相変わらず飄々と続ける彼女。

ぼくは「君も相当おもろいな」というのが精いっぱい。

そして彼女の駄目押しの一言。

「授賞式で、もうちょっとで風俗に行ってしまうところだったなんて、あんな事言わなきゃいいのに。でも私、大器晩成型の人に魅かれるんですかね」

白旗。

無条件降伏です。

人は見かけによりません。

しかし、
この時代、
6年間も文通だけなんて、
ある意味、
友人とか親族より「濃い」関係だと言えやしないか。

文通の内容とかは、
さすがに聞くのがはばかられたけれど。

事実は小説より奇なりとはまさにコレ。

意外なところで人は人に魅かれるようだ。

すごい生々しい人間の不思議を、
教えてもらった。

できうれば、
ぼくも彼女に興味を持ってもらえるような、
「大器晩成人」でありたいと、
切に願った。

●西村氏の著作をアマゾンで即注文したのは、言うまでもない。

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